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宮崎市佐土原町の内科医院です。

消化器・胃腸科が専門で、胃カメラや大腸内視鏡、腹部エコーでは鎮痛・鎮静剤を使い、苦痛の少ない検査を心がけます。
循環器や呼吸器、感染症やアレルギーも診療します。

また、介護支援専門員が介護や認知症のご相談に応じます。
なお、禁煙補助薬や男性型脱毛症治療薬も処方します。
平日8:30~12:30
14:00~17:30
水・土曜  8:30~12:30

(なお、午前中 8:30~9:00に胃カメラや腹部エコーなどの検査が入っている場合は、外来診療の開始は午前 9:00からになります)

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喫煙による超過死亡数は年間約13万人、受動喫煙では約7000人と推定される。がんに限れば、それぞれ年間77,400人、2,120人が死亡していることが推定される(※1)。
副流煙のほうが有害物質が多い
たばこと疾病の因果関係の研究では、1950年頃から「病原菌以外の原因における因果推論とその方法」として「能動喫煙」と肺がんの因果関係が議論されるようになる(※2)。能動喫煙というのは、受動喫煙ではなく自ら自発的に喫煙することだ。さらに、受動喫煙の研究は1980年代後半から盛んになり始め、90年代に入ると受動喫煙と肺がんの因果関係についてのエビデンスもメタアナリシスなどを駆使しつつまとめられるようになる(※3)。
たばこを吸った喫煙者が吸い込む煙を「主流煙(Mainstream Smoke)」といい、たばこの先から出る煙を「副流煙(Sidestream Smoke)」、喫煙者が吐き出す煙を「呼出煙(Used Smoke)」という。副流煙はタール、ニコチン、一酸化炭素などの有害物質が、主流煙に比べて2~3倍も濃度が高い、と言われているが、厚労省の「最新たばこ情報」によれば、主流煙を1とした場合、ニコチンでは約2.8倍、タールは約3.4倍、アンモニアは約46倍となっていて、ベンゾピレンや各種のニトロソアミンといった発がん性物質の量も副流煙のほうが多い。
また、副流煙や呼出煙によって非喫煙者も目や喉の痛み、血管収縮や心拍数の増加などが起きる。もちろん、発がん性物質に暴露されるので、乳幼児や子どもを含めた非喫煙者が、たばこ起因の疾病になる可能性も高い。
受動喫煙防止対策に効果はあるか
こうした研究結果を踏まえ、非喫煙者を守るために受動喫煙が問題視され、先進各国各地域で罰則付きの受動喫煙防止条例が制定されるようになった。2009(平成21)年に出された厚労省の報告書では「受動喫煙は喫煙者による『他者危害』であることが指摘」されている(※4)。
同時に日本における受動喫煙の防止(健康増進法第25条)は現状「吸いたくない人にたばこの煙を吸わせない」あくまで努力義務、とされ、同法では「多数の者が利用する公共的な空間については、原則として全面禁煙であるべき」ともされている。今国会で厚労省が目指す同法改正案は、努力義務からより強化された罰則付きの受動喫煙の防止へ進めたい、ということだ。
厚労省が目指している受動喫煙防止対策強化については、神奈川県と兵庫県に事例がある。今国会では、厚労省案に対し、飲食業界や喫煙支持議員を中心にした強い抵抗があるが、この両県では同様の抵抗を受ける中、罰則付きの条例を制定した。だが、厚労省案の「後退」と同様、条例の適用施設では、分煙や努力義務などが含まれ、不十分な部分もまだ多い。
それでは、受動喫煙防止対策には明かな効果、メリットがあるのだろうか。
まず、受動喫煙防止について何らかの法令や条例を制定した場合、喫煙関連疾患の入院リスクが下がる、というメタアナリシス研究がある。心疾患や呼吸器疾患が減少し、飲食店などへの影響でも顧客の健康志向などから経済的なマイナス影響はみられず、むしろプラス効果が期待できる、という研究も多い(※5)。
受動喫煙防止条例の制定で喫煙率は下がるのだろうか。神奈川県と兵庫県の喫煙率推移、47都道府県の中での相対的順位の変化をみると、神奈川県でその効果はより顕著と言える。
受動喫煙防止対策の限界
このように喫煙を望まない非喫煙者をたばこの煙から守る、という受動喫煙防止対策は大きな効果があることがわかる。
だが、喫煙者と非喫煙者を物理的に完全に隔離することは不可能だ。「穴」がどうしても生じる。その他の条件を全く同じにし、たばこを吸う群と吸わず煙にも暴露しない群に分ける疫学調査が倫理的にも不可能なように、喫煙者と非喫煙者の両者を完全に分けることはできない。せっかく受動喫煙防止の政令や条例を制定しても穴だらけなら効果は期待薄だ。
社会的政治的経済的に喫煙が許容されている現状では、受動喫煙防止対策には大きな効果はあるが、根源的な解決には自ずから限界がある。
喫煙率を下げること、そして望まない喫煙から非喫煙者を守ること、この二つは両輪のようなものだと筆者は考える。喫煙とたばこの煙の害は言うまでもない。喫煙率が限りなくゼロに近づけば、当然だが受動喫煙防止対策も必要なくなるはずだ。神奈川県の事例のように受動喫煙防止条例の制定で喫煙率が大きく下がるのは朗報だが、喫煙率をより下げていくためにも他の依存症対策と同様、喫煙者に対する周囲や環境の理解やサポートなどが重要なのではないだろうか。
※1:Inoue M, Sawada N, Matsuda T, et al: Attributable causes of cancer in Japan in 2005- systematic assessment to estimate current Oncol, 2012; 23(5): 1362-9.Ikeda N, Inoue M, Iso H, et al: Adult mortality attributable to preventable risk factors for non-communicable diseases and injuries in Japan:a comparative risk assessment. PLoS Med. 2012; 9(1): e1001160.
※2:「医学における因果関係の推論──疫学での歴史的流れ──」津田俊秀、馬場園明、三野善央、松岡宏明、山本英二、『日本衛生学雑誌』1996.
※3:United States Environmental Protection Agency. Respiratory health effects of passive
smoking: Lung cancer and other disorders. Washington: United States Environmental Protection Agency, 1992.
※3:「医薬研究におけるメタアナリシスと公表バイアス」浜田知久馬、中西豊支、松岡伸篤、『計量生物学』Vol. 27, No. 2, 139-157, 2006.
※4:「たばこ対策の道標」 矢島鉄也(当時)厚生労働省健康局長、『公衆衛生情報』特集号、42(11-1), 2013
※5:Effective tobacco control is key to rapid progress in reduction of non-communicable diseases. Glantz S, Gonzalez M. Lancet. 2012; 379: 1269-71
※追記:2017/04/18、12:04に引用文献を加えた。
Yahoo ニュースより